『さかさまつり』
おぼんレコーズ OBONN-001 \1,200(税込み)
2006.4.9 on SALE!
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1)風馬−ルンタ−
2)F#m
3)tusks〜エセ対機説法者〜
4)出雲
5)のうなしやろう
6).com
(extra track)サイをふれ -instrumental-
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ウランバナというバンド名を聞いて、どんなアーティストをイメージするだろうか。
 ニルバーナと響きが似ている。…当たらずとも遠からずである。カート・コバーン率いるバンドについては、改めてここで説明するまでもないが、ニルバーナとは、古代インドのサンスクリット語で、涅槃のことをいう。
 対して、ウランバナとは、やはりサンスクリット語で「盂蘭盆会(うらぼんえ)」=お盆のことであり、語源は「逆さ吊りの苦しみ」という意味である。(詳しくは、ウランバナHP・コラム「ウランバナ・バンド名の由来」参照)
 『さかさまつり』は、逆さま吊りと、ライブ=ロックショウ=まつりにこだわるウランバナにふさわしいアルバムタイトルといえよう。
 ウランバナの音楽性は非常に多彩で、リーダー極実曰く「角ばった無国籍」ロックである。個人的には、80年代ロックが好きな人が入りやすい音楽性ではないかと思う。ハードなロックでありながら、決してポピュラリティを失ってはいない。
 
1)風馬−ルンタ−
私が最も好きな曲である。「ルン」とは、チベット語で、身体をかけめぐる「気」のこと。ハードなロックを目指すウランバナにアコースティックギターは合うのか?と疑問に思ったが、それは間違いだった。特にこの曲では、ギターが曲をドラマティックに仕立てて、とてもいいものになっている。
 
2)F#m
 タイトル通りのキー曲。
F-bla-bla-k us all 逆さまに
(われわれを逆さまに犯して)
 というこの曲のフレーズは、ウランバナと改名する前身のバンドの頃からあるものだそうだ。ウランバナを象徴する1曲。
東洋思想では煩悩とされる「迷い」や「葛藤」が表現されている。極実特有のビブラートが、けだるい雰囲気を際立たせている。
 
3)tusks〜エセ対機説法者〜
 私がこのアルバムで最も興味を引かれたのが、この曲である。これまでに、サビ、タイトル部分に"牙"はともかく"対機説法者"という単語を使った曲があっただろうか、多分ないだろう。
対機説法とは、医者が病人の症状に応じて薬や治療を与える(対処療法)ように、仏陀が苦悩する人々に応じて教えを説いた方法である。
 相手に合わせて、自分の姿を変えることは、誰しもしたことがあるだろう。それを「牙を持つエセ対機説法者」と表現して、サンバ調の曲で聴かせる。言葉と曲のセンスが抜群である。この曲がアルバムの全体のムードを象徴しているように思えてならない。
 
4)出雲 
 キッチュな魅力溢れる一曲。日本語詩でありながら、不思議な独特の響きを持つ。
 シャンソンとウランバナの楽曲は、まるで似ていないと思われるだろうが、共通点がある。声と曲の表現力が非常に豊か、この曲にもいえることである。シャンソンは、人生を歌う一幕の舞台である。ウランバナも、覚りきった仏にはなれない我々が、この無常の世界で生きる様を歌う。
 
5)のうなしやろう
 うってかわって、しっとりと聴かせるメロディアスなナンバー。
ウランバナがバラードをじっくり聴かせる実力派でもあることを証明している。
 シャンソンには絶望的な失恋の曲が多いが、この曲はウランバナ版シャンソンとも言える、ドロっとした切ない愛を描いている。(シャンソンは時の流れを感じさせる。東洋思想にも、この曲にも、近いものが感じられるのではないだろうか。)
 
6).com
 キーボードの入らないメタルチューン。ライブでは恒例になりつつある、キーボードの上に立つ極実のアクションは、美輪明宏がシャンソンリサイタルのカーテンコールで金色の観音様になるのに対し、ロックに君臨するさながら自由の女神様といったところであろうか?
 

 ウランバナの音楽は、ハードなロックの中に、東洋的な神秘が見え隠れする。それがウランバナの独特の空気感をつくり、全体に一貫した雰囲気となっている。それは、宗教ではなく、信仰ではなく、ましてや布教のためなどではない。また、よく西洋人が憧れを持つ神秘思想主義でもなく、我々が生きる文化・習慣レベルに浸透している共感しやすいものである。ウランバナのソングライターである極実には、東洋思想に関するアカデミックなバックグラウンドがあるそうだ。
『さかさまつり』には、これまでのウランバナが凝縮されている。マニアックな自己満足に陥ってしまうバンドとは違ったオーラのようなもの、何か人の心を魅きつけて離さないエレメントがある。それゆえ私はこうしてウランバナを見守ってきたのだ。
ともあれ、ファーストアルバムを完成させたウランバナ、これからどこへ向かうのか? 興味は尽きない。

シャンソン東洋思想比較研究家 森永まり